好きな飛行機 「グラマンEA-6B『プラウラー』」

さて、半年ぶりのミリネタです。半年前にA-6イントルーダーを書く前、友人から「電子戦の得意なあの子も書いて欲しい」とリクエストがありましたが、まずはその母体になったA-6を書かないと話が繋がらないので、まずはA-6を書いて構想が温まったので、今回この子を取り上げました。グラマンEA-6B「プラウラー(「うろつくもの」という意味)」です。写真はウィキペディアより。

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A-6も結構特徴的なデザインですが、このプラウラーも愛嬌のあるというか、なんとも言えない「味」のあるデザイン。アメリカ海軍および海兵隊において電子戦攻撃や電子情報収集などを主務として活躍した艦上電子戦機です。

ベースとなったA-6「イントルーダー」についてはこちら

wrx-sti.hatenablog.com

にて書いております。

その誕生にはベトナムでの苦い教訓がありました。

敵のレーダーや通信を妨害し、自軍が有利な戦術状況を作り出す電子戦は、レーダーが登場した第二次世界大戦においてヨーロッパではイギリスとドイツの間で熾烈に行われましたが、一方の太平洋側ではさほど熾烈な電子戦は行われていません。理由としてはレーダーを完備したアメリカ海軍に対して大日本帝国海軍はレーダー装備が貧弱でその改善は終戦までついぞアメリカに追いつくことができなかったからです。日本陸軍は海軍よりはマシでしたが、そちらもアメリカ陸軍航空隊の圧倒的な物量に押し潰される形で壊滅していました。続く朝鮮戦争でも北朝鮮側の防空レーダー網は終盤こそ脅威になりはしましたが、戦局を大きく変えるほどではなく、電子戦用航空機は配備はされていたものの、朝鮮での戦いでもさほど活躍はしていません。アメリカ軍もソ連防空網を突破するためには電子戦の必要性は理解していましたが、そのために新規で機体を開発はせず、手持ちの大型爆撃機攻撃機に妨害装置を取り付ける改修して敵領空外から妨害を行うスタイルが主となっていました。すでにU-2偵察機ソ連領内撃墜事件でソ連防空網の優秀性は分かっていたはずなのに電子戦機材の更新は行われておらず、アメリカ軍では電子戦は軽視されていたとも言えます。

その状況を一変させたのが1964年から始まったベトナムでの航空戦でした。

開戦当時、アメリカ海軍の空母艦載機部隊の電子戦を担当していたのが、傑作艦上攻撃機A-1スカイレイダーを改修したEA-1Fです。

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写真の通り、EA-1Fは傑作機A-1をベースとしてはいますが、機体自体は1945年の開発で電子戦装備は1950年代の代物と、分厚い防空レーダー網を形成していた北ベトナムでの電子妨害ミッションを行うには時代遅れの機体だったのです。

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敵の電子情報収集というミッション用には大型艦上攻撃機A-3スカイウォーリアを改修したEA-3Bがありましたが、そちらはあくまで情報収集機ですので敵領空内に侵攻する攻撃隊に随伴して電子妨害を行う機体ではありません。戦闘機や攻撃機には自衛用に敵レーダーを妨害するECM装置や敵のレーダー探知を知らせる警戒装置は装備されていましたが、それだけでは分厚いソ連式防空網を突破することは困難で、多数の犠牲を出した事から、アメリ空海軍では電子戦機の開発や敵レーダー網を攻撃する機体や戦術の研究が行われるようになります。

この状況は海兵隊も変わらず、海兵隊が主力電子戦機として運用していたのは朝鮮戦争時に開発された夜間ジェット戦闘機であるF3Dスカイナイトを改修したEF-10Bでした。

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これまた随分な旧式機でとても攻撃隊に随伴はできないため、アメリカ軍全体として電子戦専用の機体の開発は喫緊の問題だったのです。

そんな状況の中、グラマン社は自社が開発した最新鋭の攻撃機A-6イントルーダーを電子戦専用に改造したEA-6の開発をスタートさせました。この機体はA-6の攻撃用装備の一部を撤去や機首の延長、さらには機体各部にアンテナ用フェアリングを取り付けて生み出したスペースに電子専用の装備を搭載した機体で、あくまでグラマン社独自のプロジェクトでしたが、その情報を聞きつけた海兵隊はいち早く採用を決定しプロトタイプを含めた28機のEA-6Aが製造されベトナムのダナンに展開する海兵隊航空部隊に配備されます。

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これがEA-6A「エレクトリックイントルーダー」。EA-6AはEF-10Bと協力して電子妨害ミッションを行い、洋上から出撃する空母艦載機の攻撃部隊をサポートしました。一応の成功をみたEA-6Aですが、アメリカ海軍での採用には至っていません。理由としては複座のイントルーダーでは電子妨害を担当するオペレーターが一人しか搭乗できず、より広範囲なレーダー網を無力化するにはオペレーターの負荷が極めて大きかった事がありました。また、複雑化する電子戦ミッションに対する機体のキャパシティ不足も採用に至らなかった理由です。そこでグラマン社はA-6の胴体を延長しオペレーター席を二つ追加した機体を提案。アメリカ海軍および海兵隊でのモックアップ審査を経て、生産ライン上にあったA-6Aを1機抽出してプロトタイプに改修して1968年5月に初飛行し、各種試験飛行の後に最大の難関である空母適合試験を空母ミッドウェイにて実施してそれもクリアとなり、正式に空母艦載機部隊に配備される事になり『プラウラー』というニックネームもこの頃にグラマン社内での公募にて決まりました。本格的な配備は始まりましたが、ベトナムでの航空戦には間に合わず、初の実戦はベトナム戦争終盤における南ベトナムから撤退する在留米人とその関係者の救出を行うミッションでの上空警戒となっています。

EA-6Bの電子妨害システムは当時画期的だったAN/ALQ-99戦術電子妨害システム。これはコンピューターに制御された半自動式の妨害システムで、様々なレーダー波の中から脅威度の高い目標を選別、オペレーターに表示することで効果的な妨害が行え、これまでのジャミングと比べて精度や妨害能力が格段に向上しました。更に主翼下面に装着した妨害ポッドには各々異なる周波帯の妨害機能が与えられており、より多くの目標に対する効果的なレーダー妨害が可能となっています。

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これが電子妨害ポッド(写真で搭載しているのはグラウラーですけど)。その後の改良によって対レーダーミサイルであるAGM-88HARMも搭載可能となり、妨害だけでなく自らも防空網攻撃ミッション加わる事が可能となりました。この高い拡張性と柔軟性はプラウラーの長寿の秘訣となっています。

プラウラーは製造中や部隊配備中にも改良が行われ、乗員のワークロードの低減や役割分担の見直しを図ったICAP-Iから電子妨害機能を強化やHARM運用能力を追加したICAP-II、妨害能力を更に強化し空軍との連携能力や電子情報収集能力も強化したICAP-IIIへと改良されました。機体の主翼構造の改良を行なって空力性能を改善しエンジンのパワーアップなどで機体性能を底上げしたADVCAPという機体も計画されましたが、冷戦後の予算緊縮もありキャンセルされています。

プラウラーの本格的な実戦はリビア空爆「エルドラド・キャニオン」作戦における攻撃部隊支援ミッションでした。それ以前にもリビアが挑発的に発射した地対空ミサイルを無力化するなど、その高いジャミング性能を発揮しています。そしてプラウラー最大の戦いとなったのが1991年の湾岸戦争でした。この戦いでは開戦劈頭のステルス攻撃機による第一撃に連動する形でプラウラーや空軍のEF-111A「レイヴン」が電子妨害が開始、プラウラーは同時にイラク側のレーダー情報を収集して味方の防空網制圧部隊に情報を送ってHARMによる攻撃をサポートしました。またプラウラー自身もHARMを装備して防空網制圧を行なっています。プラウラー部隊の中で、湾岸戦争中にもっとも出撃回数が多く稼働率が高かったのが横須賀を母港としする空母「ミッドウェイ」に配備されていたVAQ-136「ガントレッツ」でした。その他のプラウラー部隊も奮戦し、常に味方航空部隊の支援を行う為に平均で7〜8時間に及ぶミッションも多かった事から乗員は疲労困憊してはいましたが、その士気は高かったそうです。

湾岸戦争後、急速に進む軍縮プラウラーの運命も変えていきました。

最大の転換点は空軍の電子戦機EF-111Aの退役です。

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EF-111Aはプラウラーと同じAN/ALQ-99を搭載する電子戦機で、元が亜音速攻撃機であるプラウラーに対して、大型で超音速飛行も可能なF-111Aをベースとしており、自動化や高速性能ではプラウラーより性能が上でしたが、可変後退翼であるが故の整備性の悪さや手のかかるエンジン、更には妨害任務以外では運用ができない「潰しの効かない」機体だったが故に予算緊縮の中では費用対効果が悪いと判断され退役することになりました。一方でプラウラーは艦上機であるが故に様々なミッションをこなせるオールインワンな機体であった事、オペレーターが多い分様々な電子戦に柔軟に対応できた事、また艦上機であるが故に場所を選ばない展開能力が高く評価され、空軍との統合運用部隊も発足してアメリカ航空戦力の電子戦を一手に引き受けるようになります。一方で度重なる紛争で酷使され続けた為に機体寿命や能力向上が限界に達しており後継機が望まれるようにもなりました。

2006年、プラウラーの後継機となるEA-18G「グラウラー」が初飛行。2009年から部隊配備が始まり、プラウラーの退役が始まりました。

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グラウラーはF/A-18F「スーパーホーネット」の高い拡張性を活かして改造された電子戦攻撃機で、プラウラーとの最大の違いは元が戦闘攻撃機なので、自衛用にAIM-120AMRAAMが搭載可能になった事ですね。昨今の空中戦では重要ターゲットとして、真っ先に電子戦機が狙われるケースもあるので、自衛用にミサイルを装備することは必須となっています。電子戦システムはプラウラーが長年改良に改良を重ねたシステムをそのまま引き継いでいますので、高い電子戦能力はそのままに、コンピューターの進歩から自動化が進みオペレーターが三人から一人になったのも特徴の一つ。まあ、プラウラーの現役末期もシステムの進歩から必ずしもオペレーターが三人必要なミッションが少なくなっていましたが、重量配分の関係(搭乗する人が減れば操縦バランスが変わって危ないため)から必ずオペレーターも三人乗っていたそうです。飛行機としてのプラウラーはイントルーダー譲りの良好な操縦性がありましたが、胴体延長による空力特性の変化から、イントルーダーよりは「クセ」のある機体だったとのこと。

コホン、グラウラーの配備が始まった事からプラウラーは退役を開始。海軍最後のプラウラー部隊だったVAQ-134が2015年に退役式典を行いアメリカ海軍からは完全に退役。アメリ海兵隊はその後もプラウラーの運用を続けましたが2019年に部隊が全て解散となり退役しました。アメリカの秘中の秘だった電子戦機のため輸出も行われていません。

さて、友人からリクエストがあったのは、この子がいたから。

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マクロスΔ』のレイナ・プラウラー


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戦術音楽ユニット「ワルキューレ」のメンバーで情報収集や電子戦が担当。ハッカーとしても優秀。まあ、どんなキャラかは『マクロスΔ』をご覧ください。CVは東山奈央さん。

まあ「プラウラー」って名前から電子戦担当なんだろうなぁって思ったら、案の定なキャラでした。『デルタ』はその辺、キャラの名前にひっかけがあるので面白いですね。

プラウラーについてより詳しく知りたい方はコチラ

EA-6B プラウラー(世界の傑作機№193) (世界の傑作機 NO. 193)
 

 がおすすめ。ベースとなったA-6

A-6イントルーダー (世界の傑作機№199)

A-6イントルーダー (世界の傑作機№199)

  • 発売日: 2021/02/02
  • メディア: ムック
 

も発売されていますので、そちらもぜひ。

さて、次にヒコーキネタを書く時は、暖めていたコチラ


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の主人公機であるF-5系列かな。