好きな飛行機「グラマンA-6 『イントルーダー』」

久々にミリネタです。F-5と悩んでコチラをセレクトしました。写真はWikipediaより。

f:id:wrx-sti:20200920104437j:plain

グラマンA-6『イントルーダー』。アメリカ海軍が運用した艦上攻撃機です。独特なスタイルで好き嫌いがあると思います。僕も子供の頃はそんなに好きな飛行機ではありませんでした。しかし、高校生の頃に読んだこの本

 で好きになっています。この「デビル500応答せず」は著者が実際にA-6のパイロットとしてベトナム戦争に従軍していたことから、戦闘状況の描写や搭乗員の苦悩、そして艦内での生活など細かく描写されていて読み応えのある本でした。一応手元にあるけど、電子書籍化してくれないかなぁ。

さて、A-6の解説を。この攻撃機が登場するまで、アメリカ海軍は「核爆弾搭載可能な艦上機」の開発に固執しいました。代表的な機体としてはダグラスA-3「スカイウォーリア」

f:id:wrx-sti:20200920105209j:plain

ノースアメリカンA-5「ヴィジランティ

f:id:wrx-sti:20200920105223j:plain

ですが、これらの艦上重攻撃機は「高高度を高速で飛行し核攻撃を行う」事に特化しているが故に汎用性が低く、また艦載機としては大柄でミッドウェイ級や改エセックス級などのフォレスタル級以前に建造された航空母艦では運用が難しく、年々進歩していく防空技術の前にコンセプト自体が早々に陳腐化していきます。A-3は大きな機体サイズと搭載能力を活かした空中給油母機や電子戦機や偵察機に転用され、機体性能が優秀だったことからアメリカ空軍でも派生型が採用されましたが、超音速飛行に特化した性能と特殊な爆撃方法だったA-5はいわゆる「潰しが効かない」飛行機となってしまい、偵察機には転用されましたが複雑で整備の難しい機体だった事からベトナム戦後は早々に退役しました。A-5も派生型が色々検討はされました(アメリカ空軍に提案したエンジンをパワーアップしAIM-54「フェニックス」長射程空対空ミサイルを装備した防空戦闘機型や、運用コストがメチャクチャ高いSR-71を代替する戦略偵察機型など)が、どれも実現には至っていません。

そんな重攻撃機の整備に予算が使われた事もあり、通常攻撃を行う艦上攻撃機は第2次世界大戦末期に開発された傑作艦上攻撃機ダグラスA-1「スカイレイダー」が改良を受けながら運用されています。

f:id:wrx-sti:20200920104641j:plain

A-1は優れた艦上攻撃機で「開発時期を考えたらちょっと異常なレベル」ってくらいの性能でベトナム戦ではミグ撃墜の記録も持つとんでもない機体ですが、さすがに日々進歩していく武器やシステムの前に改良も限界に達しつつあり、後継機が必要になっていました。軽攻撃機としてはA-1と同じダグラスが生み出した傑作艦上攻撃機A-4「スカイホーク」

f:id:wrx-sti:20200920112224j:plain

が開発され順次A-1と入れ替わりましたが、敵地奥深くに縦深侵攻可能で且つ全天候攻撃や精密攻撃が可能な攻撃機の整備はA-3やA-5などの核攻撃が可能な重攻撃機配備が優先されていた事もあり、コンセプト自体は検討されていたものの一旦棚上げとなっています。一方で技術のめざましい進歩は大戦時には超大型爆撃機にしか運用できなかった核爆弾の小型化を押し進め、A-4サイズの小型機でも運用が可能となりました。そして「侵攻を受ける側」の防空用のレーダーやミサイル、そして迎撃戦闘機の性能も一気に向上し、かつてのような「高高度を超高速で侵入する」攻撃方法が通用しなくなり、攻撃方法が見直されることになります。

f:id:wrx-sti:20200920104656j:plain

そんな時期に登場したのがイギリス海軍の艦上攻撃機「バッカニア」でした。バッカニアはレーダーによる捕捉が難しい超低空を高速で飛行し胴体内の爆弾庫に搭載した核爆弾で核攻撃を行う事を主眼に開発された機体です。バッカニアについては以前書きましたが、その運用構想はアメリカ海軍の次期攻撃機に強い影響を与えたのは間違いないでしょう。

技術の進歩によって搭載する電子機器の小型化にも目処が立ち、A-3やA-5よりもダウンサイズしつつ高性能な全天候攻撃機の開発が可能になったことから、アメリカ海軍は低空を高速で飛行し縦深侵攻可能な全天候型攻撃機の要求仕様書を作成し、それに8メーカーが応募して最終的にグラマン社が提案した「モデルG-128」の採用を決定。A2F-1(のちに統合命名法でA-6Aへ改名)「イントルーダー」として採用されました。

f:id:wrx-sti:20200920104452j:plain

イントルーダーは一眼見ても独特なデザインですが、クルーの意思疎通を重視した並列式コクピットと状況認識を容易にする大きなキャノピー、全天候航法を可能とする高性能大型レーダーを収めた機首レドーム、航続距離と速度性能をバランス良く現実的に考えたコンセプト、機体の空力重心と重量物となるエンジンをなるべく近い位置にすることで優れた安定性や操縦性を確保した合理的レイアウト、そして革新的なデジタルコンピューターによる統合攻撃航法システム(通称DIANE・・・ダイアン)を搭載した当時としては先進的な攻撃機です。爆弾等の攻撃兵装の最大搭載量は大戦時の陸上爆撃機にも匹敵し、従来のジェット攻撃機の泣き所だった航続距離も大幅に延伸した事から、おりしものベトナム戦に向けて大量発注されました。ただ、この頃のアメリカ海軍はイントルーダーの革新性の全てを理解していた訳ではなく、当初の運用が上手くなかった事もあって初陣は惨憺たるものとなっています。特にDIANEのトラブルは深刻で爆撃進入中にシステムがダウンするトラブルが多発しました。これは初期のデジタルコンピューターにありがちな不具合(大量のデータを一度に処理しきれない)や複雑なシステムゆえに整備性や信頼性の低さ、そして高温多湿な熱帯雨林の環境下における耐久性の問題など想定外のことが重なった事が原因ですが、それを一つ一つ克服していく事でイントルーダーは他に類を見ない強力な攻撃機に成長していきます。特に夜間攻撃やモンスーンによる雨季の中でも攻撃可能な全天候性能は他の航空機には無く、その優れた点に気づいたアメリカ海軍は改良型の開発をグラマン社に命じることになるます。

そんなイントルーダーのベトナム戦でのミッションは映画「イントルーダー 怒りの翼」で描かれていました。


Flight of the Intruder Sam City

イントルーダー -怒りの翼- [DVD]

イントルーダー -怒りの翼- [DVD]

  • 発売日: 2007/09/21
  • メディア: DVD
 

 冒頭で紹介した小説「デビル500応答せず」が原作の映画です。動画は劇中の中でもエポックの一つである主人公達がハノイのミサイル陣地を無断で攻撃するシーン(当然小説も映画もフィクションですが、ベトナム戦争では当初攻撃目標が厳しく制限され「攻撃禁止」とされたハノイ上空で同僚がなす術なく撃墜されることに耐えられなくなったパイロットが攻撃禁止区域を攻撃してしまった事はありました。のちに無制限爆撃に切り替えられます)ですが、当時としては夜間に単独でこれだけ精密な攻撃が可能なのはイントルーダーだけでした。

イントルーダーはA型の抜本的な改良型としてE型が開発されますが、その前にバリエーションがいくつかあります。A型から爆撃用装備を下ろした代わりにレーダー探知システムを搭載しレーダーサイト攻撃用ミサイルを装備可能な地対空ミサイル制圧任務用のB型、夜間攻撃能力を強化したC型、そして空中給油母機として運用されるKA-6Dでした。

f:id:wrx-sti:20200920104528j:plain

写真は空中給油型のKA-6Dです。現在ではバディポッドと呼ばれる汎用の空中給油ポッドが各戦闘攻撃飛行隊に配備されていて、どの飛行隊でも給油任務に就いていますが、当時はイントルーダーを運用する攻撃飛行隊が空中給油を引き受けていました。のちにS-3バイキング艦上対潜哨戒機やKA-6Dの耐用年数が切れた事からA-6Eがバディポッドを使って給油任務に就いています。

故障の多かったコンピューターや搭載システムを抜本的に改良したのがE型。

f:id:wrx-sti:20200920104509j:plain

新造機以外にもA〜C型までの機体からの改造機も含めてアメリカ海軍の主力攻撃機となりました。地上部隊への近接航空支援や対空火器制圧はA-7コルセアIIが担当し、イントルーダーは高度なシステムを使った全天候攻撃や精密爆撃を担当しています。E型はさらに改良が行われ機首下にTRAM(目標認識攻撃用マルチセンサー)ターレットを搭載しレーザー誘導爆弾をはじめとする精密誘導爆弾の運用が可能になり、今までよりさらに正確な攻撃が可能になりました。1990年代が見えてくるとさすがにイントルーダーの寿命も見えてきて、後継機としてA-12「アベンジャーII」が開発が開始されますが、その開発中の時間的ギャップを埋めるべくイントルーダーをさらに改良し搭載システムの更新やエンジン換装まで行うF型「イントルーダーII」の開発や、費用のかかるエンジン換装をやめて搭載システムのみを更新したG型も検討されましたが、どちらも予算がかかる事や開発資源をA-12に集中させた方が良いとする判断から不採用となりました。ところが後継機となるはずだったA-12は度重なる開発予算超過とスケジュールの絶望的遅延からキャンセルが決定、後継機不在となったイントルーダーの寿命延長が必要となり主翼ボーイング社製の複合材主翼へ換装し、搭載システムも予算の許す限りで近代化したA-6E SWIP/コンポジットへと改修されることになります。すでにF/A-18「ホーネット」が実用化しアメリカ海軍ではA-7と交代(アメリ海兵隊ではファントムとスカイホーク、さらにはイントルーダーとも交代)していまいしたが、ホーネットは航続距離がイントルーダーより短く敵地に縦深進入する事はできなかったので、老朽化の進むイントルーダーの後継機は必要でした。急速に減耗しつつあるイントルーダーの代打として当座F-14を攻撃任務に適合させる「ボムキャット」化で凌ぎつつ、一部のイントルーダー飛行隊はホーネットに転換する事になりますが、多くのイントルーダー飛行隊は空母戦力の効率化の中で解散しています。トムキャットも運用経費の高さから2000年代初頭には退役が確実視される状況の中、キャンセルされたA-12(やN-ATFとかA/F-Xといった計画機)の代役としてホーネットの外観を真似た新規開発機F/A-18E/F「スーパーホーネット」の開発が決定し、トムキャットとイントルーダーの任務を全て引き継ぐ万能の艦上戦闘攻撃機としてアメリカ海軍の主力機となるんですが、それは別のお話。

イントルーダーは過酷なベトナム戦を戦い抜き、東西冷戦の中で「アメリカの剣」の一つとしての抑止力を担い続け「最後の実戦」となったのが1991年の湾岸戦争でした。中でも2個のイントルーダー飛行隊を有していたCV-41「ミッドウェイ」は派遣空母中最大の作戦数と爆弾投下量を記録しつつ損害ゼロという偉業を成し遂げています。ですがイントルーダー全体で見ると携行式地対空ミサイルや追尾レーダー付対空砲による損害(イントルーダーはエンジンが胴体中央にあるため、熱源誘導式ミサイルが命中すると致命傷になりやすかった)で4機が失われました。湾岸戦争後、イントルーダーは急速に退役が進み飛行隊のホーネットへの転換や解散が行われ1997年3月に最後のイントルーダー飛行隊であるVA-75が解散し、その歴史の幕を閉じています。最後まで運用した空母は「エンタープライズ」でした。海兵隊ベトナム戦争以来イントルーダーを運用していましたが、海軍よりも早くに退役が進み多くのイントルーダー飛行隊がF/A-18Dホーネットの夜間戦闘攻撃能力強化型に転換しています。

イントルーダーを主役とした映画は「イントルーダー怒りの翼」しかありませんが、映画の原作となった「デビル500応答せず」の方は続編があり、引き続きイントルーダーが主役となる正統続編「イントルーダーズ」

 があり、ベトナム戦争を生き抜いた主人公が戦争で受けた心の傷や周囲の心ない言葉との衝突、突然の人事異動で海兵隊の教官に出向させられ困惑しつつ成長していく物語で、当時のアメリカ社会にあったベトナム帰還兵問題や人種問題にも切り込んだ内容でした。その後も主人公は海軍にパイロットとして残り、将官にまで出世するんですが、そちらの話は「なんだかなぁ」って部分もあるんで割愛します。

イントルーダーという機体についてはちょっと古いですがコチラの本

グラマンAー6イントルーダー (世界の傑作機 NO. 60)

グラマンAー6イントルーダー (世界の傑作機 NO. 60)

  • 発売日: 1996/09/01
  • メディア: ムック
 

 もおすすめ。そろそろ新しい改訂版を出して欲しいところ。

さて、イントルーダーには攻撃機型や空中給油型以外に派生型があり、電子戦機として開発されたEA-6シリーズがあります。海兵隊が老朽化していたEF-10B「スカイナイト」に代わるピンチヒッターとして少数導入したEA-6A

f:id:wrx-sti:20200920104609j:plain

と海軍が開発した本格的電子戦機EA-6B「プラウラー」

f:id:wrx-sti:20200920104549j:plain

になりますが、そちらはそちらで結構な長文になるので次の機会に。

あ、プラウラーってだけで某ユニットの「あの子」


ワルキューレ/1stアルバム「Walküre Attack!」クロスフェード動画_TVアニメ「マクロスΔ(デルタ)」より

を期待した方々、次をお待ちください。