東欧諸国の戦闘機事情

「書きたい」と思った時に書くのがブログですので、今日はミリネタから欧州(特に東欧)の戦闘機事情とF-16の関わりについて書いてみたいと思います。写真はウィキペディアより。
さて、1990年代初頭に起こったソ連崩壊により、その軛から脱した東欧諸国でしたが、社会主義崩壊による深刻な経済不況が長く続き、冷戦終了もあって経済再建が優先され軍備の方は「後回し」となっていました。しかし、政治的にも軍事的にも未だ油断ならないロシア(その懸念はロシアのクリミア半島併合で現実となった)と接する東欧諸国としては、アメリカや西欧諸国と連携していく必要もあり、順次NATO北大西洋条約機構)に加盟することになります。しかし、ここで困った状況が発生しました。
軍事関連がNATO規格ではない
と言う問題。元々、東欧諸国は「ワルシャワ条約機構」としてソ連式の軍備を揃えていました。各国空軍の主力戦闘機はMIG-21やMIG-23やMIG-29、戦闘爆撃機はSu-22 (Su-19「フィッター」のワルシャワ条約機構向け輸出使用)が運用されており、通信設備や防空システムもソ連式で編成されており、そのままの状態ではNATO加盟国との連携に問題が多々あります。そこで、通信設備をメインにNATO規格への改修が急ピッチで進められ、航空機も通信機や敵味方識別装置のNATO規格品への取り替えが行われていますが、それも急ごしらえでありメンテナンスや武装や燃料など兵站面での問題は山積み状態でした。特に自らの影響圏を脱した東欧諸国に対するロシアの対応は露骨で、オーバーホールといった大規模メンテナンスの費用や武器の購入価格を吊り上げる傾向があり、既存の兵器の運用すら事欠く状況。そんな中で空軍力を整備するために幾つかの方向が取られます。
一つ目は「既存の機体に西側の装備を加えてアップグレードする」方法。

これはルーマニアが取った方法で、MIG-21やMIG-29をベースにイスラエルから技術支援を受けて改修したMIG-21「ランサー」やMIG-29「スナイパー」があります。これらの機体はレーダーをはじめとする電子機器をイスラエル製に換装し、コクピットの近代化や兵装もイスラエル製の優秀な武装が装備できるように改修されていました。ただ、機体の方はともかくエンジンの方はオーバーホールなど整備上の理由があり、MIG-29の方は早々に退役(MIG-29のRD-33ターボファンエンジンはオーバーホール間隔の短さや部品精度に問題が多く整備コストが高い)、国内の整備環境が整っているMIG-21を主力戦闘機として長く使用しています。「ランサー」には2つの仕様があり「ランサーI」は対地攻撃を主とし「ランサーII」は防空任務を主としており、さらなるアップグレードも検討されましたが予算不足で中止となりました。このアップグレードはコストパフォーマンスも高く、クロアチア空軍もMIG-21を「ランサー」規格にして運用中。ただし、機体のエアフレームの老朽化が深刻で、ルーマニアは後継機としてポルトガル空軍で余剰となったF-16AM/BM(F-16A/BにMLU・・・寿命中近代化改修・・・を実施した機体)の導入を決定。ただし、MIG-21全てを更新できる数ではないので、残りはアメリカ空軍の余剰機かNATO諸国でF-35Aに更新する国から余剰のF-16を導入する事になりそう。クロアチアイスラエルで余剰となったF-16C/Dをアップグレードした状態で導入する方向でほぼ決まりの様です。
二つ目は「比較的お手軽な方法で西側の戦闘機を導入する」方法。

これはチェコハンガリーが取った方法で、両国はサーブ社製のJAS39「グリペン」をスウェーデン政府との間でリース契約を結んで導入しています。この方法メリットは乗員や整備士の訓練を外部に委託する事でスムーズな導入が図れ、大規模な整備やアップグレードも契約の中で行われるので予算面の組み立てが容易な点ですが、一方で外交関係が拗れたりするとリース機の引き上げって事になったり、その国に合わせた独自の改修が行えないなどのデメリットもあってあんまりメジャーな方式ではありません。ただ、スウェーデンはこのリース方式を積極的に活用してグリペンの輸出実績を出してますので、将来的にはこの方法がメジャーになるのかも?ともかくも、チェコハンガリーでは西側戦闘機の導入が比較的スムーズに行われ、運用していたA/B型のグリペンをC/D型へアップグレード改修し、リース契約を延長して現在も運用されています。F-16と比べて運用経費が安く、一方で戦闘能力では互角以上ですからグリペン導入はほぼ成功と言っていいでしょう。チェコハンガリーの両国に、サーブ社は将来的な話としてグリペンの発展型であるJAS39E/F「グリペンNG」へ更新する事を提案している模様で、今後の動向も注目されています。
三つ目は「西側の機体を導入しつつ、現状の戦力もある程度維持する」方法。
 
これはポーランドが行っている方法で、ポーランドはMIG-21の更新用としてアメリカからF-16C/Dの最新輸出モデル「ブロック52アドバンスド」を導入しました。この機体はアメリカ空軍でも使われているF-16C/Dをベースにコンフォーマル型燃料タンク装備化や電子戦システムを最新型にした輸出仕様で、アメリカ空軍でCCIP改修が行われたF-16C/Dよりも部分的な能力では上回る所もあり、ヨーロッパではギリシャも導入しています。一方で大規模なオーバーホールが可能な設備が国内にあった事から、旧ソ連製のMIG-29とSu-22も戦力として整備を続ける事になりました。特にMIG-29は東西ドイツの統合で不要となった旧東ドイツ空軍の機体もドイツから購入(1機1ユーロという破格の値段)し、ドイツ国内でアップグレード(通信装備をNATO標準型へ換装した他、航法システムも西側仕様に変更)を施して配備されています。加えて他の東欧諸国が持て余していたMIG-29も購入しているので、部品取り用のストック機も結構あるんじゃないかなぁ。Su-22の方はMIG-29と同様に通信機器や航法システムをNATO仕様に換装した上で対地攻撃用として運用されていますが、こちらは当初「2018年を目処に無人攻撃機と入れ替え」と言う計画が、無人機は最初のインフラ導入から実戦配備まで結構なお金がかかるという事もあり、計画白紙撤回となって機体をオーバーホールして2020年初頭まで運用する計画に変更になりました。
四つ目は「お金が厳しいので最低限の改修でしばらく運用する」方法。
これはスロバキアブルガリアが選んだ方法で、MIG-29の通信・航法システムや計器をNATO規格に変更した最低限の改修でしのいで、将来的に新型機を買おうという選択。MIG-29にリソースを集中させる為、他の機体は全て退役しています。エンジンや機体のオーバーホールはロシアに依頼する方式でしたが、近年ロシア側がその費用を釣り上げてきたので「割に合わない」状態となり、いよいよもって新戦闘機の選定に入る事になりました。新戦闘機導入までは機体のオーバーホールはポーランドが請け負う事になっています。
この様に幾つかの選択に分かれて運用されていた東欧諸国の戦闘機ですが、チェコハンガリー以外では既存の機体の運用寿命も迫りつつあり、いよいよ新戦闘機の導入が始まる事になりました。前述のルーマニアクロアチアは中古のF-16を導入する事でほぼ決定。ポーランドスロバキアブルガリア旧ソ連製の戦闘機からアメリカ、もしくはヨーロッパ製の戦闘機へ切り替える事になりそうです。まず決まったのはスロバキアF-16の最新仕様F-16Vを導入する決定を下しました。F-16Vは以前も紹介しましたが新造以外にも既存の機体もV仕様に改修できる事から、A/B型のF-16を運用している国でも導入が始まっています。アメリカ政府とスロバキア政府の発表を見る限り、装備なども含めた契約の割に当初提案と最終合意の金額的な計算が合わないので、既存の中古機(おそらくアメリカ空軍の余剰機)を購入してV仕様に改修するのでは?と思われますが、その辺りは両政府の発表待ち。ブルガリアも新戦闘機導入には前向きで、現在F-16グリペン、タイフーン、ラファール、F/A-18E/Fなどが候補となっていますが、新造機にこだわらず中古機も含めて検討するそうなので、周辺国の状況を見ても整備面や装備面を共同管理しやすい F-16グリペンが優勢の様に見えます。ポーランドは戦闘機を全てF-16で統一する計画で、F-16Vの導入を主軸に新戦闘機の検討をしていますが、ロシアとの急速な関係悪化を受けてF-35Aの導入についても検討中。ただし、F-35Aについては調達運用経費もさる事ながら、その性能がロシア側に過剰な反応をさせるリスクもあるので、当面の所はF-16Vになるんじゃないのかなぁ。ただし、ポーランドのF-16V導入検討にはタイムリミットがあります。それは
アメリカでのF-16生産がいよいよもって終了するという問題
です。中古機でも良いと考えているブルガリアや、まだラインが稼働中なので新造機でも滑り込みで間に合うスロバキアはともかく、発注するとなると大量になるポーランドはどうするのか?F-16Vについてはまだまだ需要がありそうなので、まだしばらくは猶予があるとは言え、決断するまで時間が無いのも事実。更新する戦闘機の数が80機近いので、ユーロファイター社がタイフーンの売り込みを熱心にしていますが、昨今のドイツ空軍での絶望的な稼働率(一時期の実戦可能な稼働機総数がたった4機!)やユーロファイター社につきまとうダーティーな噂などもマイナスになって、ポーランドとしてはそもそも買うつもりは無い様子。
さて、長くなりましたが最後にF-16Vについてちょいとおさらい的紹介を。

F-16VはF-16系列の「最終仕様」とも言える機体で、レーダーをノースロップ・グラマン社製「SABER(スクランブル・アジャイル・ビーム・エレクトロニック・レーダーの略)」に換装し、ミッションコンピューターも最新型に換装、コクピットの近代化やエンジンもパワーアップした最新型となるのですが、最大の特徴は既存の機体も改修可能な点で、既に台湾空軍のF-16A/B型120機がV仕様に順次改修中。

バーレーンもV改修(新造機を含む?)を発注しタイやインドネシアギリシャやエジプトなど既存のF-16ユーザー、そしてユーロファイター・タイフーンを導入したものの計画を遥かに超える経費の高さに2020年に運用を打ち切って新戦闘機を導入する決断をしたオーストリア(中古機の改修後購入)も導入を前向きに検討しています。また、中国と南沙諸島を巡って対立するフィリピンやベトナム、マレーシアにも提案中。
F-16Vで新しく採用されるレーダー「SABER(セイバー)」は、ノースロップ・グラマン社がF-35A用に開発したAPG-81レーダーの経験と技術を活かして開発したF-16の換装用レーダー。最新の電子走査型レーダーでありながら価格を抑えたのが特徴で、アメリカ空軍ではB-1B爆撃機用に改修されたモデルが採用されました。アメリカ空軍はF-35Aの導入後もしばらく現役として残るF-16にもSABERの搭載を検討している他、アメリ海兵隊もF/A-18C/Dの近代化改修計画で換装するレーダーの候補として研究を始めています。
コクピットはこれもF-35Aの開発経験を活かしてロッキードマーチンが開発した最新型。大型の液晶ディスプレーでタッチパネル操作が可能となり、パイロットのワークロードを低減させています。もちろんJHMCS(統合ヘルメット装着型照準システム)も標準装備。ミッションコンピューターが最新になった事で、F-22F-35との連携もスムーズに行えるようになりました。
コンフォーマル燃料タンクも装備可能なので、主翼は全て兵装に割り振れる点などはブロック50アドバンスドから引き継がれています。
もともとはF-16の近代化改修プログラムでしたが、まだまだF-16の需要がありそうで新造機も作られるようになったのは、なんだかなーって気はしますが、価格もこなれていて今だその戦闘能力が高いF-16は、F-35が「高嶺の花」な国にとって魅力的な戦闘機。フランスのダッソー社が「ミラージュ2000のアップグレードや新規製造は今後行わない」と発表しているので、F-16クラスの戦闘機市場は当面のところ同機とロシアのMIG-35が直接対決って感じになるのかしら?あとは中国の J-10か・・・・。ホーネットはアメリカの余剰機はほとんど自国の海兵隊が食いつぶしそうだし。
ともかくも、東欧諸国の多くの空軍ではF-16が主力になりそうです。